ミラノデザインウィークに出展しました
しばらくブログを開店休業状態にしていましたが、2025年の4月にイタリア・ミラノで開催された世界最大級のデザインイベント” ミラノデザインウィーク”に初めて出展できたことを記録しておきます。今回のミラノデザインウィークへの出展は、異業種企業8社+デザイナーチームのグループメンバーとして参加しています。東京・大阪・広島・福岡の中小企業とデザイナーがそれぞれ協力して新たな作品を発表するプロジェクト【NEWNORMAL5】の初回展示でしたが、今回の展示はまったく新しい特別な体験となりました。
NEWNORMAL5(以下 NN5と記載します)は東京・大阪・広島・福岡から集まった中小企業の事業後継者とデザイナーがタッグを組み、事業の変革の一歩となる8つの作品をミラノ・大阪・東京で連続して発表するグループ展です。今回参加する企業が得意とする製造品目は様々で、額縁、鋼板加工品、ジュエリーケース、スチール製家具、椅子用資材、工業用ゴム製品、公共用ベンチと多岐に渡ります。https://newnormalnew.com/about/
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photo by Takanori Urata |
感覚を更新できる場所
ミラノデザインウィークは、世界中から約40万人が訪れるデザインをテーマにした世界的なイベントです。その規模の大きさ、熱気とエネルギーは、この時期に現地を訪れてこそ知ることができます。私は2019年に初めてこの世界的なデザインイベントに訪れて、ミラノの街中に溢れるワクワクとした熱気に初めて触れました。コロナが明けた2023年には、別件の視察のためにミラノに数日滞在する機会があって、今回この街を訪ねるのは3度目です。今回はシェアサイクルをメインの移動手段として使ったので、さらにこの街に馴染みが沸いてきました。イタリアという国は日本人が持つイメージどおりに、人も街も大らかで鷹揚です。他者とのコミュニケーションが上手で、その場を楽しく過ごそうとする人の性質は、この国の文化の最大の魅力だといつも感じます。
期間中のミラノは世界中から集まった斬新で先鋭的な表現が街中に溢れていて、夢中になって展示を観続けているうちに眩暈するほど感覚を刺激され続けます。今回はNN5に在廊する時間を重視したため、市中各所の展示を存分に観て廻ることはできませんでしたが、SUPERSTUDIOや話題のALCOVAなどの会場を訪れて大きな刺激を受けました。新素材、不思議な質感やその加工方法、斬新な機構やフォルム、それらを組合わせてできた新しい表現の数々、それぞれの展示は制作者の探求と創意工夫、不屈の挑戦の結実であろうことが伝わってきます。
創造的な表現に出会うことと別に楽しみにしていることは、出展している人たちとの出会いです。わざわざミラノまで自社のショーケースを持ち込んで取り組む人たちの熱意と高い視座に触れる機会は、自分の中でとても大きな励みになります。ここでしか紡がれない奇縁がそれぞれにあることは、ミラノサローネを訪れる人たちには共通して思い当たるはずです。
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![]() including Photos by Kairi Eguchi |
静電植毛加工の可能性を探る旅
NN5での当社の展示は、昨年から進めている新商品開発の研究課程で生まれたデモサンプルの紹介に留まりました。もう一歩具体化に至ったサンプルが展示できればもっとよかったのかもしれませんが、静電植毛加工の表現の可能性や限界を探るため、様々な基材に静電植毛加工を施してみることで、どんなあたらしい感覚を見つけられるのか、インダストリアルデザイナーの江口海里さんからの提案と監修を得て、昨年末からサンプル製作用ブースを社内に設けて実験を続けています。
江口海里スタジオ
https://www.kairi-eguchi.com/about
静電植毛加工という技術は、加工対象となる基材にこまかな繊維を電気の力を使って植え付けるもので、玩具メーカーが発売している小動物モチーフのフィギュアのモフモフとした手触りはみなさんにも馴染みがあると思います。三栄ケースはこの静電植毛加工技術をジュエリーケースの製作に応用すること、その自動生産化に成功することを起点に創業しています。会期中の展示会場では多くの来場者にサンプルを触ってもらい、「この質感は初めてだね」「触り心地がおもしろい」「私の業界でも加飾に応用できそうだ」といった様々な反響をいただきました。実験を経ていろいろなフィードバックを頂くことで、この加工技術のもつ未知の可能性をあらためて発見する過程を、私たちは歩き進んでいます。
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NEWNORMALでの学びと刺激
NN5に参加することで、さまざまな経営課題を乗り越えようと努力を重ねている中小企業の仲間や、独自の発想で世界を更新しようとするデザイナーたちとの交流から、新しい視点やアイデアを得ることができます。経営環境の変化が激しく加速しつづけるなかで、ものづくり企業に課せられた課題は業種を超えてとても似ている気がしています。論理思考を駆使して合理性を追求することで出来上がった枠組みが更新時機に差し掛かっていることは、なんとなく共通して認識されていることではないでしょうか。デザイナーやクリエイターの前例に捉われない視点と発想は、ロジカルシンキングに凝り固まりがちな経営に、新しい視点をもたらしてくれるインパクトになります。
問題意識と挑戦する意欲をもってプロジェクトに参加している彼らとの交流は、新しい製品を開発しようとしている私たちにも大きな刺激となり、今後進んでいく指針を検討する上で大きなヒントをもたらしてくれています。
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photo by Takanori Urata |
新商品開発プロジェクトの着地点
プロダクトデザイナーとの協働や海外出展の機会から得られる体験と学びは広く深いものがありますが、当社の場合、静電植毛の技術を使った新商品の実現、その販売を軌道に乗せて成功させることが一連の活動のゴールであることを再確認しています。企画中の新しい商品は国内外の市場に向けて提案していくことを前提としていますが、今回のミラノでの展示機会をつうじて、静電植毛加工技術のさらなる可能性を感じて、新商品の企画にあらためて希望を抱いて取り組んでいるところです。
NN5での展示はこのあと、場所を国内に移し内容をブラッシュアップしながら6月、9月、10月と続いていきます。私たちの取組みがどのような商品として実現していくのか、引き続き期待して見守っていただれば大きな励みになります。