わが堺市にはアルフォンス・ミュシャの作品をテーマにしたミュシャ館なるものがあります。
ミュシャの実息と親交のあった篤志家が、個人的に収集した500点ものミュシャ作品を堺市に寄贈したことが発端となり、堺市はそれを時機に応じてミュシャ館で展示しています。
https://mucha.sakai-bunshin.com/ 堺アルフォンス・ミュシャ館
今回はミュシャ没後80年という区切りで、同時代を生きたジュエリー・ガラス工芸作家 ルネ・ラリックの作品も箱根のラリック美術館からやってきて展示される企画展でした。図録などでしかなかなか見る機会のないラリック作品の現物を堺で見れることは滅多なことではないので、はじめてミュシャ館に行ってきました。
http://www.lalique-museum.com/ 箱根ラリック美術館
ラリックは宝飾職人に弟子入りすることから、職業人生をはじめ、その後1900年のパリ万博でジュエリー作家としての名を轟かせたのち、香水の瓶のデザイン・製作からガラス工芸作家に転じたという生涯です。ガラス工芸の作品も、ジュエリー作品も植物や昆虫などの自然物に着想を得た、流麗で自由な線が特徴で、材料もエナメルやオパールなど従来の宝飾品では使われていなかった材料を使って、アールヌーヴォーの時代背景のなか、とても自由で制限のない豊かな表現が見られます。
わたしがジュエリーをファッションや貴金属として以外に、芸術作品として観られるようになったのは、ラリック作品との出会いがあったからです。それまでは、ジュエリーは身分や豊かさを誇示するためのファッションアイテムだと感じているフシがありましたが、七宝などの加工技術を駆使して、作家個人の世界観を自由に表現しているラリックの作品を観てから、ジュエリーの捉え方が変わったような気がしています。貼付した画像では伝わらないと思いますので、ぜひ書店や図書館などで、写真や図録をチェックしてみてください。
広くメジャーで、日常的に目にすることのできるミュシャの作品には、行く前はあまり興味がわかなかったのですが、やはりその時代に刷られたリトグラフ(石版画)の現物は素晴らしかったです。ミュシャは当時のポスターなど、2次元の作品が中心ですが、細かく描かれた線の一本一本が活き活きと躍動しているのは、時が経つのを忘れるほどに見惚れます。
アールヌーヴォーの時代は時代がとても豊かで、さまざまな美術品や工芸作品の表現についても制限されるような空気が微塵も感じられません。効率や合理性に囚われずにイメージを自由に走らせることができた時代、世界がかつて存在したことを想像して、わが社にもそのようなものに囚われずに、自由に着想を得て表現ができる場を確保するべきだと感じた次第です。